ドラムを演奏しているときの「音の迫力」は、何物にも代えがたい魅力です。
スネアを叩いた瞬間の鋭いアタック、バスドラムが胸を震わせる低音、シンバルの華やかな響き——これらはドラマーならではの特権ともいえるでしょう。しかし、その魅力の裏には常にリスクが潜んでいます。
そう、それは「耳」へのダメージです。
プロの現場でも、耳のトラブルに悩むドラマーは少なくありません。耳鳴りや難聴に悩まされ、プレイを続けるのが困難になるケースもあります。
この記事では、ドラマーにとってなぜ耳を守ることが大切なのか、そして具体的にどのような習慣や機材を取り入れるべきかを、体系的に解説していきます。
目次
ドラムは「耳に最も過酷な楽器」のひとつ
まず知っておきたいのは、ドラムセットは楽器の中でも特に音圧が高いということです。
一般的に「安全な音量」とされるのは85dB程度といわれていますが、ドラムの演奏は100〜120dBに達することも珍しくありません。これは工事現場のジャックハンマーやジェット機の近くにいるのと同等、もしくはそれ以上のレベルです。
この環境に長時間さらされると、耳の細胞が少しずつダメージを受け、やがて回復できなくなります。特に高音域を感じる「有毛細胞」は再生しないため、一度失われた聴覚は戻りません。
耳を守らないとどうなるのか
耳を保護せずに演奏を続けると、次のような症状が現れる可能性があります。
- 耳鳴り( tinnitus ):キーンという高音や、ゴーという低音が常に聞こえる状態。
- 音の歪み:音が割れて聞こえる、バランスが崩れて聞こえるなど。
- 難聴:特に高音域から徐々に聞こえづらくなり、日常生活にも支障をきたす。
これらは一度進行すると完治が難しいため、「予防」が何よりも重要です。
ドラマーができる耳の守り方
耳栓やイヤープロテクターを使う
最も基本的かつ有効な方法が、**耳栓(イヤープロテクター)**の使用です。
市販の安価な耳栓でも一定の効果はありますが、ドラマーには「ミュージシャン用耳栓」がおすすめです。
これは単に音量を下げるのではなく、音のバランスを保ったまま全体の音量を均等にカットしてくれます。音楽を歪ませずに聴けるため、演奏のニュアンスも感じ取りやすいのが特徴です。
イヤモニ(インイヤーモニター)の活用
プロの現場では、**インイヤーモニター(IEM)**を導入するドラマーも増えています。
IEMは外部の音を遮音しつつ、自分に必要な音をコントロールして耳に届けてくれるシステムです。これにより、爆音の中でもクリアにプレイでき、耳の負担も大幅に軽減できます。
練習環境を工夫する
スタジオ練習や自宅での練習でも「音量管理」は非常に大切です。
電子ドラムを使えば音量を抑えつつ本格的な練習が可能ですし、アコースティックドラムの場合でも、防音室や消音パッドを活用して耳へのダメージを減らせます。
休憩を取る
長時間の演奏は耳に大きな負担をかけます。1〜2時間に一度は休憩を取り、耳をリセットする習慣を身につけましょう。ライブ本番でも、リハと本番の間に耳を休める工夫が必要です。
プロドラマーの実践例
多くのプロドラマーが、耳を守るための工夫を取り入れています。
たとえば、海外の著名なロックドラマーは常にカスタムIEMを使用しており、自分専用の音量バランスを調整しています。また、日本のトップセッションドラマーの中にも、ライブでは必ず耳栓をして演奏する人がいます。
こうした習慣は「プロだから大丈夫」ではなく「プロだからこそ必要」なのです。
耳を守ることは「音楽を守ること」
耳の健康を守ることは、単に自分の体を守るだけでなく、音楽そのものを長く続けていくために欠かせません。
耳がダメージを受けると、演奏の精度や表現力にも影響が出ます。逆に耳を守り続けることで、年齢を重ねてもクリアな音を感じ取り、演奏の幅を広げていけます。
ドラマーは全身を使って演奏しますが、最も大切な「楽器」は自分の耳そのものです。その耳を守ることが、音楽人生を豊かにし、未来のプレイを支える礎になります。
まとめ
- ドラムは非常に音圧が高く、耳に大きな負担をかける楽器。
- 耳を守らないと、耳鳴り・難聴・音の歪みといった深刻な問題に発展する可能性がある。
- 耳栓やインイヤーモニターの使用、練習環境の工夫、適度な休憩が効果的。
- プロドラマーも耳を守るための習慣を徹底している。
- 耳を守ることは、自分の音楽を守ることに直結する。
ドラマーの皆さん、迫力あるサウンドを楽しむためにも、耳を守る知識と習慣を今日から取り入れてみてください。あなたの音楽人生が、より長く、より豊かに続いていくはずです。
